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2004年11月19日 (金) 更新

[発言録] 本会議での「刑法等の一部を改正する法律案」についての質問

刑法等の一部を改正する法律案に対する質問 2004年11月19日(金)
参議院本会議

 民主党・新緑風会の松岡徹でございます。ただいま議題となりました「刑法等の一部を改正する法律案」についてご質問いたします。
 政府は本法案の提案理由として、治安水準や国民の体感治安が悪化していること、凶悪・重大犯罪に対し罪を重くすべきであるという国民感情に応えることをあげておられます。被害者の心情と犯罪の重大性に対する国民の応報感情に対応していこうという姿勢は理解できます。
 しかしながら、刑の重軽をバランス論やあいまいな抑止論で決定するにはあまりにも無責任だと考えます。何故このような犯罪がおこるのか、何故事前に予防することができなかったのか、原因を追及・分析してしっかりとした議論が必要です。被害者や国民の思いは、犯罪者に対し自らおこした罪の重大さを自覚し、心からの反省と謝罪を求めています。そしてそもそも犯罪を多発させない社会づくりをすすめていくことこそが政治の責任であると考えます。
 以上の観点から、今般国会に上程されております「刑法等の一部を改正する法律案」に関しましては、厳密な検討を行う必要があるとの考えで、政府には以下の点について説明を求めるものであります。

<100年ぶりの刑法大改正、国民的な議論の必要性について>
 今回の刑法改正は、1907年に刑法が制定されて以来の全面的な見直しとなります。
 内容的にも、有期刑の上限の引き上げや殺人・傷害・強姦などの法定刑の引き上げを含み、本法案が直接影響する範囲は百数十罪に及びます。これだけ大きな改正は現行刑法始まって以来であり、まさに100年に一度の刑法大改正といえます。
 ところが、今回の法案は、事前に国民的議論を促す形で準備された形跡がありません。長期的な犯罪情勢や犯罪の原因に関する調査・分析、重罰化による犯罪抑止効果や過剰収容への影響の予測など、立法の妥当性を裏付ける事実調査が、審議の過程でどこまでなされたのでしょうか。
 5年後には死刑又は無期の懲役、もしくは禁錮に当たる罪等の刑事裁判に、国民が参加する裁判員制度が始まり、市民裁判員が裁判官とともに被告の有罪・無罪、そして量刑を評議することになります。こうした重要な節目の時期をふまえた刑法改正について、広く国民に開かれた議論をすべきと考えますが、法務大臣に見解を伺います。

<厳罰化の立法事実について>
 この法律案が提案される背景として、凶悪・重大犯罪が増加しているということが理由に挙げられています。しかし、刑法の総則、しかも有期刑の法定刑や処断刑の上限の引上げという刑事政策の根本の改正を議論する以上は、より厳密な犯罪実態の把握を要します。そこで法案の内容を議論する前提として以下の点について法務大臣に伺います。
 まず、窃盗や強盗は多少増えているものの、殺人、放火、強姦、また強盗の中でも強盗殺人などの凶悪犯罪数は横ばいの範囲内のように思いますが、いかがでしょうか。また、傷害罪や強制わいせつ罪の認知件数が2000年に急増しているのは、「警察が全件受理の原則に転換したからで、犯罪の実態が増えたわけではない」という犯罪統計学者の見解もありますが、これについてどう考えるか、あわせて法務大臣に伺います。

<強制わいせつと強姦罪について>
 強制わいせつや強姦罪は女性の人権を著しく侵害する犯罪行為であり、これを厳しく処罰する必要があることは言うまでもありません。しかしながら、このような性犯罪の背景には、いわゆるスーパーフリー事件の際の「元気があってまだいい」などという一部の国会議員の発言に見られるような性的暴力の軽視、セクシャル・ハラスメントが黙認されるような職場の実態、「性の商品化」や「性的暴力」、「性差別」を助長する環境など女性差別の社会的な実態があり、これを克服する総合的な施策が同時に推進されなければならないと考えますが、この点について法務大臣に伺います。
 これと関連して、表面化する性犯罪はまさに氷山の一角であり、警察に届けられずに被害者が泣き寝入りをするケースが膨大にあると推測されます。しかし、それではいくら刑を引き上げても、抑止効果は限られてしまいます。被害者が被害の届出を躊躇する要因として、従来、警察で届出を受理し事情聴取をするのがほとんど男性警察官であったり、警察・検察・裁判所で何度も事件のことを聞かれたり、被害者にも落ち度があったかのような発言をされ、事情聴取の過程でいわば二次的な被害を受けるような状況もあると聞いております。イギリスでは同姓警察官による対応を原則化したり、特別な訓練を受けた介添人制度の確立、アメリカでも検察官事務所に雇われた専門的知識を有する被害者支援員による対応やメンタルケアの支援が実施されています。諸外国の事例にならい、被害者の立場にたった改善がはからなければならないと考えますが、この点について国家公安委員長に伺います。

<犯罪の抑止効果について>
 次に刑の引き上げによる犯罪抑止効果について伺います。いわゆる凶悪犯罪について、刑の引き上げがどれだけ抑止効果を持つのか、はなはだ疑問であります。専門家の間でも様々な意見がありますが、少なくともいえることは、重罰化すれば犯罪が減るというような短絡的な問題ではないはずです。人類が長い年月をかけ犯罪学や刑事政策の知見を積み重ねて獲得した英知は、単に刑罰の応報的な対応のみで犯罪が抑止されるのではなく、犯罪抑止のための原因の究明・分析や総合的な対応策の検討、犯罪者の再犯予防や更生施策等、様々な視点からの犯罪の抑止の取り組みが積み重ねられてきました。しかし、今回の提案ではこの点の十分な議論・検討がなされたとは思われません。
 法定刑の引き上げによる犯罪抑止効果がどの程度あるのか、また法定刑の引き上げ以外の犯罪抑止策について具体的にどのような方策を考えているのか、法務大臣に伺います。

<刑務所の過剰収容、矯正教育の充実について>
 次に刑務所の収容について伺います。2003年末には、刑務所や拘置所の行刑施設の収容人員は73,734人で、収容定員を4,040人も上回っており、支所を除く行刑施設の本所の9割弱が定員を超える過剰収容となっております。法定刑の引き上げにより服役期間が長期化することによって、刑務所ではますます過剰収容が進むことが懸念されます。今回、有期刑の長期化を提案されるにあたり、今後の刑務所人口の推移をどのように予測しているか。予測の根拠、前提条件も示した答えを法務大臣に伺います。あわせて、刑務所人口の予測を踏まえて、どのような過剰収容の解消策をお持ちなのか、法務大臣に伺います。
 さらに長期受刑者の社会復帰に及ぼす影響でありますが、20年、30年も社会から隔離して、拘禁施設に収容することは、社会復帰そのものを不可能ならしめると考えます。
 また、犯罪被害者の中には、加害者が何故そのような罪をおかしたのか、犯罪原因を明らかにしてほしい、その罪を償い被害者に対し心から謝罪してほしいとの思いをもっておられる方もたくさんおられます。再犯防止の視点からも、矯正教育の充実は非常に重要と考えますが、過剰収容状態が長期化しますと、行刑の本旨であるところの更生、あるいは社会復帰に向けた訓練が効果的に行えないという恐れが予想されます。刑法の重罰化がさらなる過剰収容を引き起こすことを念頭に置いたとき、再犯を引き起こさせないための矯正教育の充実にむけ、いかなるプログラムの充実策と対応策を準備しているのか、あわせて法務大臣に伺います。

<行刑改革と本法案の整合性、行刑改革の推進の具体策について>
 2002年秋に発覚した名古屋刑務所での一連の受刑者に対する人権侵害不祥事事件は多くの国民に衝撃を与え、抜本的な行刑改革が緊急の課題となりました。名古屋刑務所の人権侵害不祥事事件を契機に発足した行刑改革会議は、2003年末に詳細な提言をまとめました。
 しかしながら、本年6月に、名古屋刑務所豊橋刑務支所の看守部長が女性収容者を妊娠させた事件が発覚しています。強制わいせつ・強姦罪を重くする法案を提出しながら、法務省みずからが足下の強制わいせつ・強姦を放置していて、行刑改革が進んでいるといえるのでしょうか。法務大臣の見解を伺います。
 このような事件の再発を防止し、刑務官が受刑者の人間性を尊重しつつ矯正の職務を全うするためにも、刑務官への人権教育がきわめて重要であると考えます。名古屋刑務所での人権侵害不祥事事件や豊橋刑務支所事件の反省と行刑改革会議の提言をふまえた人権教育が、現在どのような内容で、どの程度の頻度で実施されているのか、また今後の充実策について法務大臣に伺います。
 また、本法案による重罰化によって刑務所の過剰収容がさらに悪化することになれば、行刑改革会議の提言の目指す改革の実現は事実上不可能になるのではないかと懸念されます。本法案による重罰化と行刑改革の実現が現実に両立しうるのか、両者の政策的整合性についてどう考えているのか。法務大臣に伺います。

<公訴時効期間延長、刑事手続きの適正化について>
 次に15年以上にあたる罪について、公訴時効の延長が提案されていますが、たとえば、25年経ってから控訴提起された被告側は、証人の所在すらわからないとか、証拠が見つからないというように、防御権が保証されないことが十分に考えられます。そのような場合に、検察官が持っているすべての証拠や情報にアクセスでき、捜査機関が集めた証拠は適切に管理され、弁護側への十分な証拠開示が保証されるべきは当然のことと考えますが、法務大臣に見解を伺います。
 さらに、法定刑を厳罰化するという議論と平行して、むしろその前に、現行の刑事手続きに問題はないのでしょうか。とりわけ、国際的な基準に照らして、改善を検討すべきではないでしょうか。国連の自由権規約委員会からは、再三にわたって取調を録音、録画することや弁護側への証拠開示を保証することが勧告されております。
 民主党ではかねてより、刑事手続きの適正化を求めて参りました。とくに捜査や取調の透明性、公平性を確保すべきであるとの観点から、ビデオ録画等による取調過程の可視化、弁護人立合い権の確立、検察側の証拠開示の徹底化が必要であると考えていますが、法務大臣の見解をお伺いします。

<人権侵害救済法について>
 犯罪を抑止していく重要な前提として人権を確立していくことは欠かすことのできない重要な課題です。名古屋刑務所における人権侵害不祥事事件、ならびに犯罪を予防していく視点からも、一日も早い人権救済制度の確立が求められています。先週来日されたルイーズ・アルブール国連人権高等弁務官は日本政府関係者にパリ原則にもとづく人権委員会の設置を強く要請されました。民主党も、国連からの勧告等の国際的責務を全うすべく、独立性、実効性を確保した、いわゆる「人権侵害救済法」の制定を提起しています。国際的人権基準であるパリ原則にもとづく人権委員会を内閣府に設置する「人権侵害救済法」の制定が重要であると考えますが、政府としての考え方を内閣官房長官に伺います。

<結語>
 さいごに、犯罪状況やその原因・背景は民主社会を築いていく課題を反映していると考えます。国民の犯罪状況に対する不安や、被害者救済・支援に真摯に応えるためにも、犯罪の現状や原因を追求・分析し、犯罪を解決していくための取り組むべき施策について、国民的議論という手続きをしっかりとおこわなければ、その効果は期待できません。このことからも今回の提起の内容はあまりにも拙速すぎます。近年、とりわけ多くの強盗事件の被疑者の職業をみたとき、「無職」の2文字がきわだっています。失業率は5%前後を推移し、年間の自殺者数が3年連続3万人を越えるなど、弱者切り捨ての政策により、人々を犯罪に走らせる要因をつくっているのは小泉政権そのものではないでしょうか。犯罪を生み出さず、抑止していく社会、そして被害者を支援し、加害者の再犯を防止して、社会復帰できるような仕組みを確立していくことは、人権が確立された社会でないと実現できないと考えます。
 たった一人に現れる部落差別や人権侵害をみすごさず、人権運動に取り組んできた者として、人権確立社会を政治によって実現することが、犯罪を抑止していく最短の道だと確信していることを表明致しまして、私の質問を終わります。

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