2月4日、衆議院議員会館において「福祉の支援を必要とする矯正施設等を退所した人々の自立支援を考える東京集会」が開催され、私も参加しました。集会を主催した「よりそいねっとおおさか」の梶本徳彦代表(大阪府社会福祉協議会会長)は、「障がい者や高齢者が社会に居場所がなく、犯罪を繰り返すという厳しく悲しい現実がある。この問題が忌避され、取り組みが遅れてはならない」と挨拶。発題者や参加者の意見を交流するとともに、参加者一同による要望書を採択し、関係機関に送付することになりました。
集会では、長崎県の社会福祉法人「南高愛隣会」の田島良昭理事長、元衆議院議員で作家の山本穣司さん、そして更生保護法人「同歩会」の水田恵理事長の3人からの発題がありました。
田島良昭さんは「この問題は本来私たち福祉に関わる人間がもっと関わる必要のあった問題であり、反省せざるを得ない。調査研究・支援センター事業等の取り組みを進めてきたが、罪を償ってきた多くの人が世間の冷たさにさらされ、行政からも放置されている。刑務所に戻りたいという人のいる悲しい状況を変えていきたい」と述べられました。
山本穣司さんは「国会議員であったが世の中が見えてなかったという贖罪意識がある。刑務所が避難地、保護地となっているのが現状で、行政本来の仕事・機能として、罪を犯さざるを得ない状況に陥った人に対する支援が必要。刑務所がセーフティーネットとなっている状況が問われている」と問題提起されました。
水田恵さんは「必要な福祉支援を提供する更生保護施設がつくられていない現状がある一方で、無料低額宿泊所のあり方も問題となっている。生活保護も含め、国はお金の使い方を考えていかねばならない。大切なことは、いろんな意味で〝つなぐ〟ということ。地域生活定着支援センターが全都道府県で設置されないことにはそれもできない」などの意見を述べられ、3人の発題を受けて、国会議員を含む集会参加者からの感想や意見も出されました。
私自身、更生保護法の改正について本会議や法務委員会で質疑を行ったことがありますが、出所者のおかれている厳しい現実をあらためて実感しました。退所者が再犯することのない、社会復帰のしやすい社会づくりにむけて今後も努力していきたいと思います。
(少し長くなりますが、集会で採択された要望書のテキストを参考までに添付します)
*****
「地域生活定着支援センター事業」の整備・充実に関わる要望書
2007年7月、厚生労働科学研究の「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」班が、全国15カ所の一般刑務所受刑者を対象にして、初めて知的障がい者に関する実態調査を行い、その報告書をまとめました。そこでは、知的障がいあるいは知的障がいが疑われる人が410人(全収容者の1.5%)おり、うち療育手帳所持者はわずか26人にとどまっていること(つまり「福祉の対象外」とされてきた)。410人のうち再犯者が285人(69.5%)にのぼり、前刑時の帰住先が「未定・不詳」が124人(43.5%)と、出所後の「受け皿」の不十分さが再犯を繰り返す大きな要因となっている実態が浮き彫りになりました。
同様に、高齢者についても深刻な実態が明らかになっています。例えば、「2007年度版犯罪白書」によると、累犯高齢者の場合、出所後「6か月〜1年以内」の再犯者比率が31.1%と際立って高く、「6か月以内」を合わせると約50%が1年以内に再犯しています。犯歴10犯以上の高齢者では、「窃盗」(大半は食料品の万引き等)が51.4%で、続く「詐欺」(大半は無銭飲食等)と合わせると全体の60%以上を占めており、明らかに背景には貧困等の経済的要因や「出所後の生活を見通した支援の欠如」等があると言えます。
こうした現状が、「刑務所は、厳しいけれど寝食の心配のない場所」という高齢受刑者の声に見られるように、地域や社会(時には家族)からも排除され、「福祉の対象」にもされず、「誰からの支援も受けられない」という今日の「日本の縮図」とも言える状況を生み出しています。
こうした中、国は厚生労働省と法務省の連携事業として、昨年7月から、矯正施設を退所した人のうち、特に高齢者と障がい者(「特別調整対象者」)を中心に、福祉サービス等の支援につなげる「地域生活定着支援事業」を創設し、「地域生活定着支援センター」の設置(都道府県に1カ所を目途)を柱に取組みを進めています。
現在、11県で設置され、2010年度内の開設を予定している所もいくつかありますが、いまだに「設置の予定なし」という所もあります。「足並みが揃わない」理由には、全国事務担当者会議や都道府県の要望書などに見られるように、事業の立ち上げ時から、この事業に対する不安や責任の不透明さがあったことがあげられます。そして、実際にセンター事業をスタートさせた県でも、「不安が現実のものになった」といった声にも聞かれます。
一方で、「地域生活定着支援センター」は設置されていないものの、民間レベルで取組みを進めている所も多くあります。私たちは、民間の立場から、「罪を憎んで人を憎まず」との観点で、とりわけ、本来、福祉等の必要な支援がありさえすれば、罪を犯すことや繰り返すことを防げたはずの人たちへの支援を通じて、「救いのある福祉」、「やり直しのきく社会」づくりをめざしたいと考えています。そして、行政や地域生活定着支援センターと連携しつつ、「地域生活定着支援センターだけではできない支援」を行うことをめざしています。
このようにこの事業は動き始めました。そして、それは「刑余者」支援というテーマを通じて、実は更生保護行政と福祉・労働行政、国と都道府県、都道府県と市町村(あるいは都道府県同士)、そして行政機関とNPO等の民間団体や福祉施設・医療機関等といった「タテ・ヨコの総合的連携」や「ワンストップ機能」の確立等、野宿生活問題や薬物依存への対応といったことも含め「今日的な課題」にチャレンジする取組みです。そのためにも、まずは全国で「地域生活定着支援センター」が設置される必要があります。
また、帰住先の決まらない「特別調整対象者」という最も困難を抱えた人たちの支援であるが故に、既存の制度・施策や社会資源、ネットワーク力を「フルに活用する」ことはもちろん、これらの「改革や創設、再構築」が求められています。
そこで、既にスタートしている「地域生活定着支援センター」や民間レベルでの取組みを通じて明らかになってきた課題を整理し、全国での「地域生活定着支援センター」の設置と充実が実現するよう、以下、大きく3点に分けて要望します。
第1に、「地域生活定着支援(センター)事業」の実施に関わって、国の役割や「地域生活定着支援センター」の権限等の明確化という基本的な問題についてです。
国は昨年の7月から事業をスタートさせ、早い時期に全ての都道府県に設置されることを想定されていたようですが(そうでないと連携ができなくなる)、なかなか進んでいないのが現状です。その理由としては、全国担当者会議等でも明らかになっているように、いくつかの問題があると思います。
その1つは、「更生保護行政は、本来国の責任・事業ではないか」という指摘です。確かに、事業の検討当初は「国が直接実施する」との方向を示していましたが、「急転直下」ともいえる形で実施主体が都道府県に切り替えられたという経過があります。
ここで付言しておくと、私たちは「罪を犯してしまった人たちが、再び罪を犯さない」ために必要な支援を行うという意味での更生保護行政は、単に「国の責任」でできるものではなく、むしろ自治体行政(特に第一線の市町村)の関わりが不可欠であり、これまでこのことが不十分だったことにも問題があると考えています。
2つには、「地域生活定着支援センターに何ら法的な裏付け(職務権限等)がない」という指摘です。「特別調整対象者」等の環境調整は、更生保護法に基づいて保護観察所が行うことになっています。しかし、保護観察所からの依頼に基づき、福祉ニーズの確認等を行い、受入先施設等の斡旋や福祉サービスの申請支援を行う「コーディネート業務」を中心に行うことになっている「地域生活定着支援センター」には「職務権限」がないために、特に「守秘義務、個人情報の保護」等が壁になって必要な情報等が得られない、といった問題が現場で起こっています。
3つめには、しかも、この事業が厚生労働省所管の「セーフティネット支援対策等事業」の中の「地域福祉増進事業」の1メニューになっていることから、「全額国庫補助と言っても、いつか国ははしごをはずすのではないか?」という不安・不信感があることです。
したがって、改めて更生保護行政、とりわけ福祉的支援を必要とする「出所者」に関わる国と自治体行政等の責任と役割を明らかにすること。そのもとで「地域生活定着支援センター」の「職務権限(情報請求など)」を「担保」すること、さらに、「事業の安定性を担保する」という点では、補助事業から委託事業に切り替えるといったことが必要だと思います。
第2には、既存の制度・施策等の改革・充実と創設に関するものです。
実際の支援に関わって、制度・施策面での問題があります。例えば、出所後の支援でまず問題になるのが「援護の実施者は誰なのか?」ということで、ここでの市町村間での「振り合い」が起っています。具体的な事例として、出所後に障がい者・高齢者の生活を支えるためには、生活保護にならざるを得ないケースが圧倒的です。しかも、苦労して帰住先が確保できた(できそうに)なったとしても、そこが援護の実施者となるため、新たな負担となる(そのために協力が得にくくなる)という問題があります。したがって、この事業と関わる生活保護の適用については「別枠の設定」等の制度改革が必要です。
同時に、障がい者であることや高齢者であることから、当面の生活の場として、「福祉施設」等の受入体制の確保が不可欠となっていますが、受け入れにあたって、何らかの人的支援や財政的支援等の「加算」制度の対象施設等の大幅な拡充が必要です。
また、社会復帰後も継続して本人がSST(ソーシャルスキルトレーニング)等を受けたり、あるいは受入先の社会福祉施設等が障がいや犯歴特性に応じた研修等が行えるような施策の実施やプログラム開発が必要です。
第3には、「地域生活定着支援センター」の事業予算が「少な過ぎる」ことです。
補助事業の内容としては、原則、1人以上人の専門職員を含む4人の職員体制を確保することになっており、その上で活動事務費等を含めて、年間1,700万円の補助となっています。しかし、これでは余りにも少なすぎます。現に、事業を実施している所からも「この予算ではやっていけない」、「調整等に必要な行動費等が足りない」、「そもそもセンターとしての事務所を確保するための予算が組み込まれていない」といった声があるように、「実際に求められる役割・業務」と補助内容が違っています。
また、大規模な矯正施設や再犯者が多く入所する矯正施設を抱える所や大都市圏等では、4人という体制や1カ所だけでは無理となってくるのは明らかです。したがって、補助対象経費の見直しと抜本的な予算の拡大が必要です。
以上、要望いたします。
2010年2月4日
福祉の支援を必要とする矯正施設等を退所した人々の自立支援を考える東京集会
参加者一同